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2026.8.4稲田・森両国会議員(弁護士)が、アスベスト労災日額改正の遡及適用を厚生労働大臣に提言、労働政策審議会(9/8)に連絡会が要望

お知らせ 制度・改善

 2026.9.8労政審労災保険部会が開かれ、下記の資料1・7-8頁の3案について議論され、労働側2人の保護の主張に対し、使用者側3人、公益2人は遡及適用に反対でした。

第131回労働政策審議会労働条件分科会労災保険部会|厚生労働省

 事前に連絡会が要望を出しているので、掲載します。

アスベストなど遅発性疾病の給付基礎日額に関する要望

 お世話になります。給付基礎日額の算定について、ばく露時賃金に加え、発症時賃金(発症時賃金のほうが高い場合)を追加して下さることに、感謝申し上げます。

 下記について要望いたしますので、どうぞよろしくお願いいたします。

1 「発症時賃金」追加要望の歴史

 (1) 1970.4.28国会答弁は「発症時賃金」

 遅発性疾病の給付基礎日額(平均賃金)について、衆院社会労働委員会で労働基準局長は「十五年くらい潜伏期間がありまして膀胱ガンになるというような問題でございます。」、「発病時においてその時点から三カ月ということでございますから、その人が現在どこか働いていらっしゃるとすれば、そのときの賃金が休業補償の基礎になりますから、直前の状態で押えるわけでございます。古い過去にはさかのぼりません。そういうことでございます。昔働いていたところでなくて、いま働いて得ていらっしゃる賃金の三カ月でやる、その発病後休業補償をする」と答弁しています。(2025.11.3貴部会宛、当会の要望別添6)

 このように発症時賃金で算定すると国会答弁されていますが、発症時賃金がばく露時賃金より高くても、今まで発症時賃金で算定されませんでした。

 (2) 2005年から訴え

 福井の片山さんは労災認定されたものの、20代の賃金とされたため、ばく露時賃金の低額問題を訴え、尼崎のクボタ・ショック後の2005年11月にNHKで取り上げられました(2025.11.3貴部会宛、当会の要望別添5)。

私たちの体験 – アスベスト患者と家族の会 連絡会

 アスベストなどの遅発性疾病は20代にアスベスト作業をしても潜伏期間が10年以上あり(中皮腫や肺がん)、20代で発症することはないので、20代の賃金で算定するのは、明らかに誤りです。

 稼得(かとく)能力損失補填という原則だけでなく、災害補償責任の原則に照らしても、不合理だと考えます。

 (3) 法律家の意見(資料1)

 今回の問題について、稲田朋美 衆議院議員(弁護士)から意見をいただきました。全文は後掲の資料1ですが、ここに要旨を記載します。

ア 総論

 ・「当時の制度に基づき適正に決定したもの」という認識は、改める必要がある。遅発性疾病に関する制度が適当でなかったにもかかわらず、これを見過ごしてきたという評価になる。

 ・本改正は法の趣旨に従って見直しをするもので高く評価されるべきものなのに、経過措置の点のみをもって違法との評価を受けかねないものであるから、追加給付を行う必要がある。

イ 各論

 ・国民にとって不利益が生じない場合には遡及が許され、過去の不相当な取扱いによって国民が不利益を受けていた場合には遡及されることが義務である。

 ・これまでの取扱いは、例えば、新卒入省時に病原物質にばく露していたとして、数十年経って発病し働けなくなったのに、初任給ベースの補償しか受けられないというもので、合理性・相当性を欠く。

 ・発症時期による差別は、遅発性疾病による損害の特殊性を無視するもので、不合理な暴論である。

2 解決の方法

 3つの解決法が考えられます。

(1) 改正前発症についても、発症時にさかのぼり再算定し、追給

(2) 改正前発症について、今後の支給に関し再算定

(3) 改正前発症について、新制度を適用せず

 上記(1)は現行法で解決しますが、上記(2)の遡及分、上記(3)については石綿救済法厚生労働省関係で手当てをしていただきたいと思います。

 現行法で解決しない部分について、石綿救済法で救済すべき論拠については、3に後述します。

 また、上記(2)(3)の未解決問題のうち、被災患者の休業補償の日額是正について、「発症時賃金」の問題とは別の問題における労働保険審査会の裁決があります。後続の休業補償については、新制度を判断基準とするもので、4に後述します。

3 石綿健康被害の特殊性

 (1) すき間ない救済

 石綿救済法厚生労働省関係の特別遺族給付金は、労災法における5年で時効になった遺族を救済するものです。そもそもの議論が大事です。

 2005.7.19参院厚生労働委員会で、尾辻大臣が「アスベストの被害というのは時間が掛かって出てまいります。大変長い時間が掛かっておりますので、その証明に困難なことが多い、そのことはよく理解できます」と答弁し、また、2005.10.19の衆院厚生労働委員会でも「非常に多くの方々が被害に遭って亡くなっておりますし、また苦しんでおられる方も極めて多い数おられます。実は、先日、私も被害者の方にもお目にかかりました。大変深刻なお話を承ったところでございます。・・・被害者をすき間なく救済する仕組みの構築にスピード感を持って取り組んでいかなければならない」と答弁しました。

 かかる議論を経て、「石綿に起因する疾患が、潜伏期間が長いこと、石綿と疾患の関連性に医者も本人も気づきにくいこと等の特殊性を有することから、その救済を図るため、特別遺族年金または特別遺族一時金を給付すること」になりました(2006.1.27衆院本会議の川崎大臣答弁)。

 このような事情は労災給付基礎日額についても全く同様ですから、上記2(2)(3)の未解決部分を、石綿救済法の改正によって救済することが考えられます(「特別給付基礎日額」制度のような形)。

 (2)想定外・異質性(資料2[略])

 労災保険制度の在り方に関する研究会では、遅発性疾病にかかわる「想定外」、業務上負傷との「異質性」が議論されるなか(資料2)、「ばく露時賃金」に加えて「発症時賃金」も算定の基礎とされるに至りました。

 石綿疾病の多発に対して、このたび給付基礎日額の在り方について深く検討され、制度がいま整ったということから、かかる石綿被害の特殊性に照らし、石綿救済法厚生労働省関係の改正も視野に入れて、「発症時賃金」にかかわる救済を推進していただければと思います。

 石綿疾病は潜伏期間が長く、重篤で、過去のばく露歴や医学的要件該当性 の疎明が困難であり、労災認定へこぎつけるのに精いっぱいです。闘病の苦しみと遺族の悲嘆の中、労災認定に加え、(年金)給付基礎日額の審査請求まで求めるのは酷だと考えます。

4 後続の休業補償における給付基礎日額

 上記2(3)のとおり、休業補償の日額が旧基準で決定されても、労災療養を継続する患者の後続の休業補償請求の日額については、新基準で判断するとした東京労災審査官決定書・労働保険審査会裁決があります。

 (1) 後続の休業補償の日額について「新基準で判断」とする労働保険審査会の裁決など

 今回の「ばく露時賃金」の問題と別に、遅発性疾病の再雇用賃金問題の是正について、東京労災審査官と・労働保険審査会が新基準で判断するとした決定・裁決は、2025.11.3貴部会宛、当会の要望別添4です。

 双方の問題を比較すると、下表のとおりになります。

再雇用賃金の低額問題ばく露時賃金の低額問題
旧制度 旧制度(基収第4464号通達――資料3[略])では、再雇用時に石綿ばく露がなくても、再雇用賃金とされた。(正社員賃金の余地なし) 旧制度では、発症時賃金がばく露時賃金より高くても、ばく露時賃金とされた。(発症時賃金の余地なし)
新制度 新制度(基補発0626第1号や、それを改正した基補発0329第2号通達)では、再雇用時に石綿ばく露がなく、定年前後で労働関係が継続していなければ、正社員賃金とする。 新制度では、発症時賃金がばく露時賃金より高ければ、発症時賃金とする。
判断基準 旧制度で再雇用賃金とされていても、後続の休業補償請求の審査請求・再審査請求においては、新制度で判断する。 旧制度でばく露時賃金とされていても、新制度を適用すべき。


 再雇用の低額問題では新基準が出るまで、再雇用時に石綿ばく露がなくても、正社員賃金で算定することはできませんでした。同様にばく露時賃金の低額問題では、発症時賃金のほうが高くても、発症時賃金で算定することはできませんでした。
 前者について、上記のとおり労働保険審査会などは、後続の休業補償の日額について新制度を判断基準としています。
 旧基準(資料3)で救済される余地がなかったところ、「後続の休業補償の日額の判断基準は、新制度である」とした、上記労働保険審査会の裁決例を軽視していただきたくありません。そこには、石綿肺にくるしむ被災労働者の闘病があります。

 (2) 後続の休業補償における見直し

 補論ですが、後続の休業補償請求において、従来の判断を見直した事例として、次のものがあります。

 ・2008年6月4日東京高裁判決、上野監督署、平成19年(行コ)第235号休業補償不支給決定処分取消請求控訴事件 障害認定において脊髄損傷が否定され、最高裁まで敗訴が確定したが、後続の休業補償請求について、脊髄損傷を認めました。軽度外傷性脳損傷友の会 出版物案内

 ・2013年6月18日の「画像所見が認められない高次脳機能障害に係る障害(補償)請求事案に報告について」という通達に基づいて、過去に障害認定されたものの、あらためて後続の休業補償を請求した事案を含め、本省協議に基づいて軽度外傷性脳損傷か否かを判断しています。

 石綿救済法環境省関係の救済給付と労災補償給付の関係など「他法令との併給調整の取扱いについて」と題する環境再生保全機構の文書において、労災法の休業補償は「一時金として支給される給付」に、遺族補償年金は「年金として支給される給付」に分類されます。

 たとえば月々請求される休業補償は一時金と考えられ、それぞれの支給処分は別個の行政処分なので、制度が変更された場合、新基準で見直すことがありうると考えられます。

5 休業補償の日額が旧基準で算定され、被災労働者が逝去し、遺族補償請求する場合

 給付基礎日額は、平均賃金の端数を切り上げた額です。

 遺族補償年金の年金給付基礎日額は、平均賃金や休業補償の給付基礎日額をそのまま用いるわけではなく、給付基礎日額にスライド率を乗じ、それで算出された日額が最低限度額及び最高限度額の適用を受けるかを確認して、決定されます。

 資料4(略)のとおり、岐阜労災審査官は、2008年に中皮腫を発症して休業補償を受けていた被災患者が逝去し、2015年に遺族補償年金が支給された事案について、日額に関する審査請求期間が徒過していると判断しました。

 その場合、遺族の年金給付基礎日額は遺族補償年金の支給決定において確定し、審査請求の期間が徒過するところの起算日は遺族補償年金の支給決定日とされています。

 したがって、休業補償において給付基礎日額が旧基準で算定されていても、年金給付基礎日額を新基準で判断すべきと考えられます。

資料1 稲田朋美 衆議院議員(弁護士)の意見

総論

 遅延性疾病を発症した方については、もともと労災保険法第8条第2項の「平均賃金に相当する額を給付基礎日額とすることが適当でないと認められるとき」に該当しているから、厚生労働省令で別の算定基準を定めなければならなかったのに、これまで定めていなかったという問題を解消しようとするものである。

 したがって、本改正までに既に遅発性疾病を発症している方々については、厚労省例で別基準を定めていなかったという不適切な不作為のために、漫然と同条第1項の平均賃金が適用されてきたのである。これは、法第8条と整合した取扱いとは到底いえず、「当時の制度に基づき適正に決定したもの」という認識は改める必要がある。

 そもそも、今般、厚労省においても遅延性疾病については「平均賃金に相当する額を給付基礎日額とすることが適当でないと認められる」として省令改正をするわけである。そうだとすると、遅延性疾病に関する知見が最近になって大きく変わったなどの事情がない限り、もともと「適当でな」かったにもかかわらず、これを見過ごしてきたという評価になると考えられる。労災保険法第8条第2項による厚生労働省令を定める否かの判断は、労災保険法の趣旨及び同項の要件によって羈束(きそく)されており、政府の自由裁量ではない。

 そうすると、本改正はまさに「当時の制度に照らし誤った手続や対応があったものをあるべき手続等に訂正した」場合の典型例であり、「平成16年から平成29年の毎月勤労統計の賃金額の訂正による労災保険給付等の追加給付」や、「最高裁判決を受けた平成25年生活扶助基準改定の見直しによる生活保護費の追加給付」のように、追加給付をしなければならないものである。

 例えば、政府の責任も認められているアスベストによる疾病を既に発症している被害者の方々について、「行政コスト」が大きいなどという理由で、本来あるべきだった補償を切り捨てるなどとの判断は、政治的にはもちろんのこと、法的にもおよそ許容することはできない。本改正は、せっかく厚労省において自ら法の趣旨に従って見直しをするもので高く評価されるべきものなのに、経過措置の点のみをもって違法との評価さえ受けかねないものであるから、適切に追加給付を行う必要がある。

各論

1 改正内容の遡及について

 法的安定性の観点から不遡及が原則であるとしても、国民にとって不利益が生じない場合には遡及が許されるし、過去の不相当な取り扱いによって国民が不利益を受けていた場合には、遡及させることが政府の義務になることもある。本件は、上記「労災保険給付等の追加給付」や「生活保護費の追加給付」と同様に、遡及させることが政府の義務になる場面である。

2 遅発性疾病の給付基礎日額に「平均賃金」を適用することの問題について

 労働者災害補償保険法第1条は、労災保険の目的として、業務上の事由による労働者の疾病等に対する「迅速かつ公正な保護をするため、必要な保険給付を行」うことや、「労働者及びその遺族の援護」等を掲げている。これを受け、厚労省の資料でも、労災保険の目的は「災害によって失われた稼得能力のてん補」とされている。

 したがって、労災保険の給付額は、「稼働能力のてん補」や労働者やその家族の支える観点から合理的なものとなっていなければならない。損害発生時点における労働能力の喪失割合等を算定することが、損害の公平な分担の観点から、最も合理的かつ公平であり、例えば、不法行為により段階的に異なる後遺障害が生じたような累次的損害発生の場合、段階的に発生する損害ごとに個別に、その損害発生時点での損害を算定するのが、裁判実務での合理的考え方である。

 これまでの取扱いは、例えば、霞が関を例にすると、新卒入省時に何らかの病原物質に曝露していたとして、それから数十年経って、賃金も高くなり、それを前提に家族を養い住宅ローンを払っているという状況で働けなくなったのに、初任給ベースの補償しか受けられなかったというものであるが、合理性が全くなかったことは明らかである。

 したがって、遅延性損害について、期間中の物価上昇、収入の上昇等が反映されない「平均賃金」を用いてきた取扱いは、相当性を欠くものであったというほかない。

3 発症時期による差別が許されないこと

 被害者にとって、アスベスト被害に基づく病気をいつ発症したかは全くの偶然に過ぎないのであるから、その時期が本改正前後のいつであるかで給付額に大きな差を生じさせることは許されない。特に、アスベスト曝露に起因する病気の潜伏期間は、石綿肺で15~20年、肺がんで15~40年、悪性中皮腫で20~50年であり、アスベスト曝露に起因する病気による休業、障害、死亡等は類型的に遅発性のものであるから、早期に発症して労災申請した方と、遅れて発症して労災申請した方との間で、稼働能力のてん補に当たって全く異なる基準を設けることは、およそ合理性がない。

 公平の観点から、全ての対象者に同一判断基準でのてん補が実現される必要が高く、遡及的救済をしないとの判断は、遅発性疾病による損害の特殊性を無視し、本来同様に救済されるべき被害者間での不合理な差別を行政が創設するという、極めて不合理な暴論である。