じん肺(石綿肺)合併続発性気管支炎の切り捨てを許さない
研究と運動に沿って、肺がボロボロになる前から労災療養できるようになりました。
ところが、じん肺診査ハンドブックの基準に反する監督署の切り捨て事件がありました。
また、環境省の救済給付ができたあと、石綿肺の合併症を「不正受給」と決め付け、当事者の心を傷つける事件もありました。
2025年9月、ハンドブック自体を変えてしまおうという動きがあります。(労働政策審議会じん肺部会における厚生労働省の提案)
第28回労働政策審議会安全衛生分科会じん肺部会 資料 |厚生労働省
今まで、患者に学ぶ医師たちは石綿肺・合併症の診療を誠実に行い、続発性気管支炎については、たんの量・性状の検査を施行し、正確に診断してきました。
今回、ハンドブックに盛り込もうとしている「たんの好中球エラスターゼ」は一般的な検査ではなく、現場に混乱をもちこむものです。
1977年じん肺法改正――合併症・続発性気管支炎の導入
政府から「新しい肺機能検査」が提案され、じん肺の症状が極端に悪くないと労災が受けられない仕組みになる危険が起きました。そのため、海老原医師ら産業衛生学会から意見書が出されました。(肺がボロボロになる前から、労災療養を!)
その結果、労災認定に当たっては医師の総合的な判断を重視すること、肺機能悪化の要因は慢性気管支炎なので、肺機能障害が認められない場合であっても、慢性気管支炎を併発している患者に対し、労災補償することになりました(社会労働衛生4-3)。
そのため、じん肺管理4(著しい肺機能障害)だけでなく、じん肺管理2,3・続発性気管支炎合併で労災認定されるようになりました。
続発性気管支炎の労災認定は、たんの検査によるべきなのに、その基準に反して切り捨て
じん肺合併続発性気管支炎の「じん肺診査ハンドブック」における基準は、たんの量・性状が「膿性たん」かどうかです。
ところが、監督署がその基準に反して、労災補償を不支給にするという事件が起きます。
- 2004年の是正
東京土建の内装工がじん肺合併続発性気管支炎に罹患し、労災請求したところ、2003年7月に不支 給とされました。「認定基準を満たしているのに、労災を認めないのは許されない」として東京労働局と交渉。2004年3月に、労災認定されました。
また、埼玉土建の石工が、労働者性と・続発性気管支炎罹患の双方を否定され、療養補償・休業補償が不支給になりました。
しかし、審査請求した結果、労働者性が認められ、また、膿性たんであるとして、2004年6月に労災認定されました(東京労災審査官、社会労働衛生3-2)。
・ 2007年の是正
埼玉土建の大工が在宅酸素になり、じん肺合併続発性気管支炎になって、労災請求したのに、2006年2月に療養補償・休業補償が不支給とされました。
厚生労働省は、「診査医が判断基準を誤解していた」ということで、2007年4月に監督署が労災認定しました。
以上の通り、監督署が続発性気管支炎の基準(膿性たんの検査)を踏みにじって、労災を不支給にする事件が続きました。
続発性気管支炎を「不正受給」と印象づけ、環境省の石綿救済給付から、合併症を排除
2006年に石綿救済法が制定され、労災がきかない一人親方・周辺住民などに対する救済給付の制度ができました。
当初指定疾病は肺がんと中皮腫だけでしたが、石綿肺が追加される際、石綿肺・合併症の多くを占める合併症(続発性気管支炎など)が排除されました。それに利用されたのが、中央環境審議会における医師の報告です。
吉井英勝衆院議員の質問主意書から引用します。
「本(2010)年1月22日に開かれた、第三回中央環境審議会環境保健部会石綿健康被害救済小委員会において、北海道中央労災病院の木村清延医師は、じん肺労災認定患者のうち、本来じん肺の合併症である続発性気管支炎は少数のはず、聴覚障害不正受給事件があったなどと報告した。この報告に対し、1月25日に『中皮腫・アスベスト疾患・患者と家族の会』(以下、患者と家族の会)は、環境省石綿健康被害対策室が、石綿肺の合併症患者を不正受給者だと印象づけるため、同医師の主張を聴く機会をつくった、として抗議文を出している。
よって、次のとおり質問する。
(1)アスベストに関連する『指定疾病』の拡大による救済給付の対象である石綿肺の多くは、建設自営業者など職業ばく露によるものであると考えられるが、現在労災認定されている石綿肺の合併症は、石綿肺全体のうちどれだけの割合を占めているのか。また、続発性気管支炎の患者を『不正受給者』と考えるのか、明らかにされたい。」
これに対し、鳩山内閣は「平成20年度におけるじん肺症等に関する労災認定の件数のうち、じん肺の合併症に関する労災認定の件数が占める割合は、約80.4パーセントである。
また、じん肺の合併症の一つである続発性気管支炎は、労災認定の対象となる労働基準法施行規則(昭和22年年厚生省令第23号)別表第一の二第五号に掲げる疾病であることから、じん肺の合併症としての続発性気管支炎にかかっているとして労災認定が行われた者が、保険給付の不正受給者であるとは考えていない」と答弁書で答えています。
今回のじん肺診査ハンドブックの改訂
- 労災疾病臨床研究の研究組織
2022~2024年度の芦澤研究代表者の「じん肺健康診断とじん肺管理区分決定の適切な実施に関する研究」の研究組織には、研究協力者として上記3質問主意書に引用される医師が入っています。
今まで続発性気管支炎の膿性たんの基準を踏みにじる「労災不支給」が失敗し、「不正受給者」という偏見をもって、判断基準自体を変えてしまおうという意図が感じられます。
- 総合的な医学的判断
2025年5月7日の衆院厚生労働委員会で田村貴昭委員が「たんの成分検査というのは、今度のハンドブックで必須とするんでしょうか。補助的な検査として望ましいと検査を求めるにしても、絶対条件としないことが求められますが、いかがでしょうか」と質問。井内政府参考人は「たんの好中球エラスターゼに関しましてですが、続発性気管支炎に関する総合的な医学的判断の一助になり得るものとして、膿性たんが持続する場合には検査して確認することが望まれると記載されていると認識をしております。この検査結果をもって合併症の有無が機械的に判定されるものではなく、あくまでも総合的な医学的判断で判定されることは従来と変わりないと考えております」と答弁。
重ねて田村(貴)委員が「この検査は、検査できる病院が三つしかありません。この検査結果を申請時に求められるならば、救えない人、そして切り捨てられる人が出てくるのではないでしょうか。/しかも、この検査は、保険収載もされておらず、申請費用が高額になることも予想されます。検査が高額なためにアスベストの被害補償の申請ができない、そういう事態を招いてはいけないと思いますが、一体どうしますか」と質問。福岡厚生労働大臣は「この検査の位置づけにつきましては、引き続きじん肺部会で御議論いただくことになります。そして、重ねてになりますが、これはあくまでも総合的な医学的な判断で判定されることは従来とは変わりはございません」と答弁。それに対し、田村(貴)委員は「必須ではない、絶対条件ではないということですね。確認しました」と発言しています。
以上の歴史を踏まえ、じん肺・石綿肺の合併症続発性気管支炎の切り捨てを許さないたたかいが必要です。