建設労働者か・いなか(事業者か)の判断は、実態に即して
連絡会は9月5日、厚生労働省の『労働基準法における「労働者」に関する研究会』に要望を提出しました。
建設業における労災認定において、過去の職歴で労働者だったかどうかの判断は重要です。
実態に沿わず、形式にとらわれ、被災労働者・家族の救済されないことがあります。最近でも「労働者」の判断基準ーーたとえば「グループ請取り」(同じようなレベルにある仲間がグループで請け負う形態)の世話役が労働者グループの単なる代表者か・使用する者であるのか、実態に即して判断しなければならないのに、安易に「使用者」と判断している事案が起きました。
アスベスト疾患やじん肺の「労働者性」判断に関する要望
アスベスト疾患、石綿肺などじん肺・合併症の労災認定にかかわる、労働者性の判断については、粉じんばく露から発病までの潜伏期間が長いという特殊性があり、さかのぼってばく露時の労働者性を立証しなければならず、被災労働者や家族が結構苦労しています。
つきましては、かかる実態を踏まえ、議論を深めていただければ幸いです。
1 石綿健康被害の特殊性
(1) 過去の労働者性を判断
建設業では、労働者なのに、労災特別加入で処理する傾向が強いです。
また、アスベスト疾患については、労災法ではなく、石綿救済法環境省関係の救済給付に流れることも多いです(救済給付は療養手当が月約10万円で、労災と異なり遺族年金がない)。
長期間のアスベスト作業のうち、中皮腫は原則1年以上「労働者期間+特別加入期間」があれば労災認定され、肺がんは原則10年以上「労働者期間+特別加入期間」があれば労災認定されるなどしています。石綿肺・合併症は「労働者期間+特別加入期間」が原則事業者期間より長くなければ、労災認定されません(別添『社会労働衛生』19-3・56ないし60頁の労働保険審査会裁決は石綿作業10年で認めたが、現行で労働基準監督署は労働者期間等が長くないと、認めない)。
ですから、アスベスト患者の粉じんばく露歴全体を考慮して、過去のばく露歴に労働者性があるか否かを判断する必要があります。労働者から事業者への身分の変遷も多いので、複雑です。
ところが、過去に労働者であっても、現在自営(一人親方など)の場合、労働基準監督署から労災にならないとされ、上記救済給付になっている例があります。
別添の『社会労働衛生』19-3・50ないし51頁が、その例です[監督署から石綿救済給付に追いやられ、のちに労災認定された事案]。労働者性について理解している人が介在しないと、こういう事案は埋もれてしまいます。
(2) 労災で補償すべきものが、石綿救済給付へ
石綿救済法の救済給付について、環境再生保全機構がまとめています。
平成18~令和5年度累計のアンケートの結果は以下のとおりである。 ・石綿ばく露状況の内訳を見ると多い順に、職業ばく露6,276人(63.3%)、環境ばく露・不明3,202人(32.3%)、家庭内ばく露262人(2.6%)、施設立入り等ばく露169人(1.7%)であった。 ・職業分類別に見ると最も多かったのは、製造・制作作業者4,801人(29.1%)、次いで採掘・建設・労務作業者3,984人(24.1%)であった。 ・産業分類別に見ると最も多かったのは、製造業5,754人、次いで建設業4,178人であった。また就労人口当たりの被認定者割合が高い「建設業」に従事歴のある方のうち、特定の職種(はつり工・解体工、左官など)について集計を行ったところ、大工674人、電気工311人、配管工271人の順に多かった。 石綿健康被害救済制度における平成18~令和5年度被認定者に関するばく露状況調査報告書について(お知らせ)|2025年|新着情報一覧 |アスベスト(石綿)健康被害の救済|独立行政法人環境再生保全機構 |
建設業の石綿被害者の労働者性・労災認定の要件は、上記の通り複雑で、少なからず本来労災補償すべきものが、救済給付に流れている懸念があります。
その懸念を考察する材料として、次のようなことがあります。
ヘルシンキ・クライテリアで、石綿関連肺がんは中皮腫の二倍発症すると言われています(概論「西ヨーロッパ、北アメリカ、日本、およびオーストラリアでは、石綿の使用が 1970年代にピークに達し、現在では、約 8 億人の人口につき、毎年、約 10000 件の中皮腫と 20000件の石綿で誘発された肺がんが、発生すると見積もられている」。下記の資料3 第5回石綿による疾病の認定基準に関する検討会資料|厚生労働省)
建設業の労災認定について、肺がん発症は中皮腫発症の2.0倍であるべきところ、県別に集計すると首都圏が1以上なのに対し、大阪・兵庫は逆に0.5くらいにとどまっています(別添の末尾)。首都圏は建設労組・建設国保や医師らが意識的にアスベスト疾患掘り起こしに取り組み、1994年以降労災認定が進みました。
意識的に掘り起こさないと、石綿関連肺がんは埋もれる – アスベスト患者と家族の会 連絡会
逆にいえば、意識的に掘り起こさないと建設労働者の石綿労災認定は埋もれるということであり、これには少なからず労働者性の判断(被災者・遺族にとっても、監督署にとっても)が影響するということだと考えられます。
2 形式ではなく、実態で
第3回貴研究会資料1-1・4頁に、フランスでは主観(契約形態、形式)ではなく、客観(実態)を重視する傾向があるとされています。
労働基準法における「労働者」に関する研究会 第3回資料|厚生労働省
ところが、監督署が形式で判断し、実態を見ず労働者性がないとし、労災の審査請求では実態を検討して、労災認定した事案があります。
別添『社会労働衛生』3-2・39ないし45頁が被災労働者側の「追加意見書」、同46ないし48頁が審査官の決定書です。[石工のじん肺について、被災患者を労働者であると逆転認定した事案]
監督署の対応でもこういうことが起きてしまうので、「形式ではなく、実態で」ということは、ぜひ強調していただきたいと思います。
なお別添16-3・96ないし103頁の裁判例は第1回貴研究会資料3-1 No93(深見裁判長は、建設アスベスト給付金の審査会現会長)[電工の労災給付基礎日額に関する横浜地裁判決]、同19-3・60ないし62頁の裁判例は同じくNo89です。[同居親族の労働者性に関する甲府地裁判決]