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労災給付基礎日額の公正な是正を。

会報

 労働者が石綿作業によって石綿疾病になった場合、労災認定基準を満たせば労災認定されます。

 労災の休業補償や遺族補償の額は、発病前の平均賃金を基本にして計算された「給付基礎日額」によって決まります。具体的には、発症前3カ月間の平均賃金ということです。

 石綿疾病のように、長い潜伏期間を経て発症する場合、どうなるか。石綿粉じんにばく露した「最後の事業場(保険関係)」の賃金を基礎に算定することになっていますが、低日額になってしまうことがあります。

建設労働者から自営になり、労災特別加入

 建設業でのちに独立したけれど、中小事業者として「特別加入」(労働者以外で労災保険任意加入)の日額を5000円などの低額にした場合、最後の保険関係が特別加入ということで、低日額になってしまいます。

 ところが、もし特別加入せずに未加入で発病した場合、建設労働者時代の賃金で計算され、低額にはなりません。特別加入しているか・いないかという偶然で、日額が異なるのは不合理です。

 ある電工のかたは横浜地裁の判決によって、あとのほうの特別加入の期間ではなく、労働者時代の石綿作業が原因で肺がんになったとされ、労働者時代の賃金に是正されました。

 2009年8月6日に厚生労働省が「労働者としての石綿ばく露期間のある特別加入者の給付基礎日額の取扱いについて」という事務連絡を出し、特別加入していた期間における石綿ばく露が「極めて軽微」なら、労働者期間の給付基礎日額で給付することにしました。

正社員の定年後に、再雇用

 石綿にばく露した会社が定年になり、そのまま再雇用した場合、再雇用の低額になってしまう。

 ところが、再雇用されなかった場合や、子会社に就職した場合には、定年時の相当額になる。これも、偶然によって、日額が異なって不合理です。

 斎藤が代理人をやった事案で、労働保険審査会が上記の訴えをきいてくれ、定年時の賃金に是正されました。これを国会議員が取り上げ、審査会の裁決を踏まえた通知を厚生労働省が出しました。

 さらに、昨年3月29日に同省が「定年退職後同一企業に再雇用された労働者が再雇用後に石綿関連疾患等の遅発性疾病を発症した場合の給付基礎日額の算定に関する取扱いについて」という改正通知と、5つの事例を記載した事務連絡を出しました。

 しかし、厚生労働省は、再雇用後に軽微な石綿ばく露があった場合には「再雇用の低額でよし」としており問題です。これで低額にされた被災患者のかたは、審査請求をしています。

 久保共同代表は、上記通知が出る前に再雇用低額にされており、改正を要求しています。

働き盛りに発病したが、20代の賃金

 福井の片山さん、徳島の小川さん、いわきの渡邉さんが同様に訴えています。

 石綿にばく露した会社を20代に離職した場合、50代で発症しても、20代の賃金にされます。ところが、仮に石綿にばく露した会社にそのまま在職していれば、50代の賃金になります。

 偶然によって、給付基礎日額が大きく変わってくるのはおかしい、ということです。

 福井選出の稲田朋美衆院議員がこの地元の問題に取り組んでくれて、連絡会でも陪席して厚生労働省の補償課長とやり合っています。

 改善の提案としては、当然20代の賃金明細がもうないので現行では、通達に沿って地元事業場へのアンケートや賃金統計をもとに計算されていますが、それを統計などに沿って20代ではなく50代の賃金に当てはめるとか、50代発症時の会社(石綿にばく露していない事業場)の賃金で算定するとかが考えられます。

 補償課長は、労災の原則は「災害補償責任」なので、石綿にばく露していない会社の賃金では算定できないというのですが、2019年に或る政策変更がされました。

 それは、兼業している労働者がいた場合、今までたとえば副業先で労災になっても副業先の賃金しか算定の基礎にされませんでしたが、労働政策審議会などの検討を経て「副業と本業」の賃金を合算して「給付基礎日額」を算定することにしたのです。

 労災には「労働者の稼得(かとく)能力や遺族の被扶養利益の喪失の填補(てんぽ=埋め合わせ)」という原則もあるので、上の例では「非災害発生事業場」(本業)の賃金も算定の基礎とするよう改正しました。

 アスベストの例でいうと、発病した働き盛りの賃金と20代の賃金とには「差額」があるので、上記「非災害発生事業場」の考え方も考慮して、差額分を補償すべきではないか、という提案です。