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渡邉(わたなべ)正幸さんの体験談

体験談

 石綿肺合併症として認定されるも、労災日額は20代の賃金

  1. 北海道から福島県いわきへ   (1)職歴

 私は、北海道の赤平出身です。その後、静岡県に引っ越しました。

 1969年に北海道の親戚から連絡があり、歌志内にある炭坑で働きました。外回りの仕事で、貨車への資材の積み下ろしなどに従事し、坑内に入ることはありませんでした(18-19歳のころ。非粉じん作業)。

 1970年6月に閉山となり、いわきで配達の仕事をするようになりました。

 1975年7月、いわき中越株式会社に入社し、スレート切断作業に従事しました(石綿粉じん作業)。従業員数は約60人、勤務は二交代制でした。

 マスクを着けていましたが、昔のマスクはすき間が多く、かなり粉じんを吸ったと思います。また、ダクトで構内の粉じんを吸い上げていましたが、吸い切れてはおらず、作業が終わると服は真っ白で、工場内は常に粉じんが飛散していました。

 さらに私は、ダクトで吸い上げた粉じんをトラックに積み、工場裏の空き地に片づける作業も行いました。実は、この作業のときの粉じんが、一番飛散がひどかったです。

 1977年1月に同社を退職し、その後非粉じん作業に従事しました。

(2)発病歴

 1990年代後半から、少し息苦しさを感じていました。2005年12月に息苦しさが増し、咳が出てきたので、近医に受診したところ「肺気腫」と診断されました。

 2006年4月、配送業務中に突然息切れを起こし、トラックの荷台から落ちて、腰を骨折して入院しました。入院先で胸部CTを撮ったところ「肺気腫」でなく、じん肺の症状だとして労災病院を紹介されました。労災病院で、間違いなくじん肺(石綿肺)だと診断されました。

 同年9月、福島労働局にじん肺管理区分を申請し「管理3イ」と決定されましたが、療養の要否は「否」でした。この際、じん肺健康管理手帳と石綿健康管理手帳が交付されました。

 2007年7月のじん肺健康診断で合併症の検査を行ったところ、続発性気管支炎も合併していると診断されました。同年9月に労働局から「じん肺管理3イ・続発性気管支炎・要療養」と決定されました。

 いわき労働基準監督署に労災請求し、2007年12月に労災認定されました。

 当初療養補償のみ受給していましたが、じん肺の悪化により2010年8月に退職を余儀なくされ、休業補償も受給するようになりました。

 現在在宅酸素を使い、不自由な思いもあります。肺がんを二度発症し、また、肺炎のため息苦しく、入退院をくり返してきました。「もうダメか!という気持ちと何度闘ってきたか、でも生きることができ、うれしいと思っています。

2 労災の通院費

 ところで、労災は療養補償の一環として、ガソリン代を含め通院費が支給されます。(同一市区町村内などまで。中皮腫は、原則全国どこでも)

 ところが、監督署はその権利を教えず、労災認定後10年経って通院費が支給されることを知りました。療養補償の時効2年以内しか支給されず、8年分は時効になってしまいました。

 労災などの制度について、厚生労働省はちゃんと周知すべきです。

3 労災給付基礎日額の算定

 平均賃金は2010年4月、福島労働局により7,664円と決定されました。

 算定方法は、基発第193号通達(「業務上疾病にかかった労働者の離職時の賃金額が不明な場合の平均賃金の算定」昭和51年2月14日、本誌18-1・37-39頁)にもとづきます。

 最終粉じん事業場は既に廃止(2006年11月)。 

・離職時の賃金関係の資料は保存されていない。

・算定事由発生日に当該事業場所在地の地域における同種、同規模の事業場はない。

 第193号通達記の5 「賃金構造調査(全国計)における産業、企業規模、年齢階級及び生産と事務・管理・技術別きまって支給する現金給与額に当該事業場所在の都道府県別賃金格差を考慮して得た金額を基礎とし、これに毎勤調査(労働省毎月勤労統計調査)における当該賃金構造調査の調査対象年月が属する四半期と算定事由発生日が属する月の前々月間の賃金水準の変動を考慮して推算すること」という規定に沿い、計算されました。

4 労災給付基礎日額を公正に是正してください。

 石綿作業のため粉じんに暴露し、離職して30年後、石綿肺合併症になってしまいました。不安でしたが、労災認定され、ホッとしました。

 しかし、労災の日額は上記3の通り、50代で発症したのに、20代の平均賃金です。公正ではないと思います。

 石綿救済法は、「石綿健康被害の特殊性」に着目して救済することにしています。労災の給付基礎日額は、石綿の「最終粉じん事業場」という物差しだけでは、公正に救済されません。石綿粉じんに暴露して、発症するまで長い時間がかかっているからです。労災のけがが起きた場合とは、かなり違います。

 ぜひ労災日額を公正に是正する制度を、救済法の「厚生労働省関係」として創設してください。