労災は「適正」ではなく、「公正」
かつて中皮腫の労災療養中に、監督署が「適正給付」と称して、労災を打ち切ってしまったことがありました。石綿関連肺がんは手術して再発しない場合、労災を打ち切られることがありますが、今のところ中皮腫の打ち切りは間違いです。石綿肺管理4などは、傷病補償年金に移行する場合があります(移行しない場合、引き続き療養補償・休業補償を継続)。
最近財務省や会計検査院が、労災の「適正給付」=打ち切りを要求してきます。
2021.5.18 倉林参院議員に対する厚生労働省の回答
倉林明子参院議員が「労災法では迅速かつ公正な保護がうたわれているから、労災法に規定されない『適正』ではなく、公正という語で統一すべきではないか」と質問したところ、補償課は「公正な判断で支給・不支給を決定した後、支給決定後の個々の療養者の現状が適当で正しい状態であるのかを判断する事務であることから適正という語を使用しております」という回答書を出しました。
つまり、労災認定は公正にということだが、長期療養に対しては適正かどうか判断する、ということで、公正と・適正を区別しています。
2024.3.29 都道府県労働局長あて、厚生労働省通知
ところが、「令和6年度地方労働行政運営方針について」には、「労災保険給付の請求については、標準処理期間内に完結するよう迅速な事務処理を行うとともに、適正な認定に万全を期する。/特に社会的関心が高い過労死等事案をはじめとする複雑困難事案は、認定基準等に基づき、迅速・適正な事務処理を一層推進する」とあります(第5の4(4))。
明らかに、2021年の回答書と矛盾します。公正認定から「適正」認定へ。厚生労働省の中では、「適正給付」と称して労災を打ち切るのと同じく、認定をしぼれという掛け声のように受け止められるのではないでしょうか。
東京労働局をはじめ、厚生労働省本省への「本省協議」が多すぎます。業務上外だけでなく、療養中労災認定されていても、遺族補償について本省協議して不支給にされることがあります。
5月16日、倉林参院議員事務所で厚生労働省に聞いたところ、2023年度アスベスト事案、本省協議の回答数は260、2024年度の回答数は268です。(2023年度のアスベスト労災の決定数は1308、特別遺族給付金の決定数は235です。)
労災を不支給にした監督署段階とは異なる医師が、審査請求で鑑定を
石綿関連肺がんは、石綿作業があっても、胸膜肥厚斑(プラーク)などの医学的所見がないと労災認定されません。しかし、胸部CT画像などの胸膜プラーク所見の診かたは、医師によって異なる。
2014年5月15日の総務委員会で、近藤昭一衆院議員が質問し、「審査官が、監督署が意見を依頼した医師と同じ医師に対して、異なる視点から、また補充的に意見を求めるということもあるとは承知しておりますが、いずれにいたしましても、事案の内容に応じまして、当該医師とは異なる専門医からの意見を求めることも含めまして、審査請求事件の公正かつ適正な処理をするために、丁寧な対応に努めてまいりたいと考えております」という厚生労働省の答弁を引き出しています。
2025年5月16日、上記国会答弁についてただしたところ、審査請求段階で新たな医学的意見が出された場合などは、監督署段階と異なる医師の鑑定もある、と回答しました。