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父、旧国鉄職員「不認定」から「認定」へ

会報

[ 2025.2.20第24号から、紹介します。]

日和田 修司(西日本支部)                         

 令和6年11月28日付で、亡父日和田健太郎は、独立行政法人鉄道建設・運輸設備整備支援機構(以下、鉄道・運輸機構という)より、再審査を経たのち、「業務災害」として「認定」されました。

【亡父の晩年】

 生前の父が、アスベストを原因とする疾患に苦しんでいたことは、県外に在住していた兄弟3人とも(私は次男)、まったく知りませんでした。死亡診断書の死亡原因が「右胸膜中皮腫」「右胸水」とあっても、聞き慣れない病名だとそのまま受け入れていました。

 晩年には、原因不明の息苦しさから救急車を何度も呼び、睡眠時にはほぼ座った状態で寝ていた理由が、いまになって理解できます。

 しかし後日わかったことですが、父自身が鉄道・運輸機構から「じん肺」申請に関する書類を、済生会病院から診断書をもらっていたので、息苦しい原因を理解していたのかもしれません。

▲ 台車作業場(1974昭和49年4月 幡生工場にて。左が亡父)

【アスベストのばく露歴】

 亡父は旧国鉄の下関幡生(はたぶ)工場(山口県)では、貨車職場・検査職場・台車職場にて「工作検査掛」を、博多総合車両部(福岡県)では、電車第2センターにて「工作検査主任」を歴任し、約35年間アスベストの粉塵が浮遊するなかで作業をしてきました。

 昭和53(1978)年4月に退職後、平成24(2012)年5月に胸膜に腫瘍性病変が見つかり、平成25(2013)年7月に「右胸膜中皮腫」「右胸水」を原因として享年87歳で亡くなりました(アスベストのばく露から33年以上を経て病気が発症したことになります)。

【亡父同僚の認定状況】

「元国鉄職員に対する石綿(アスベスト)を起因とする業務災害補償等認定実績(国鉄精算事業管理部資料)」によると、国鉄幡生工場における認定者数は9人、博多総合車両部1人となっています(令和6年9月30日現在)。

 内訳は以下の通りです。

幡生工場

・工作掛 中皮腫1人

・工作技術係 肺がん1人 中皮腫1人

・工作検査係 肺がん1人 中皮腫2人

・工作検査主任 中皮腫2人

・工作検査掛 中皮腫1人

博多総合車両部

 ・工作検査主任 中皮腫1人

【闘いの始まり】

 その後、頭の中では「アスベスト」と死亡診断書の死因「中皮腫」が結びつくことはありませんでしたが、死後9年が過ぎた令和4(2022)年に、「アスベスト」に関する報道を聞いて、その因果関係を知りました

 直ぐに、亡父の救済について、多くの弁護士や支援団体に相談しましたが、「旧国鉄案件は難しい」と言われ丁寧に断られていました。

【鉄道・運輸機構への申請】

 幸いにも、遺品の中に「CT写真」「レントゲン写真」「診断書」「記念誌/幡生工場の歴史(1)」が見つかり、当時の職場環境を調べながら、「死亡診断書」を添えて、令和4(2022)年12月5日付けで鉄道・運輸機構に対して「災害認定申請書」を提出しました。

【不認定と落胆】

 残念ながら、令和5(2023)年5月9日付けで「不認定」通知が届きました。当時は、「アスベスト健康被害」に関する知識は、ほとんどありませんでしたので、個人では限界を感じていました。

【良きアドバイサーとの出会い】

 これまで何度も落胆・挫折を繰り返してしてきましたが、「連絡会」の斎藤事務局長と知り合い、アスベスト健康被害に関する多くの知識を提供していただくと共に、多方面にわたり、ご支援をいただきました。「信念に堅く立つ」アドバイサーに巡り会えて本当に幸運でした。

 斎藤事務局長のアドバイスもあり、不認定理由の根拠を知るために、鉄道・運輸機構に対して情報公開を請求しました。

【不認定理由の矛盾】

 その結果、通知書に記載された不認定理由は、「厚労省認定基準(H24.3.29基発0329第2号)」によるとされていましたが、実際は、環境省認定基準(病理検査資料による確定診断資料が必要)に合致しないためであることが判明しました。

 これでは、不認定理由の記載に「虚偽の記載」があったことになります。

 加えて、通知書にあった厚労省認定基準を精査すると、「厚労省認定基準(H24.3.29基発0329第2号)」の記第3の4「特別遺族給付金に係る対象疾病の認定について」には、「死亡の原因の判断については上記2及び3にかかわらず、特別遺族給付金の支給請求書に添付された死亡診断書等の記載事項証明書等の記載内容により判断すれば足りるものである」と明記されていました。

 つまり、鉄道・運輸機構は、不認定通知書に記載された厚労省認定基準に含まれる「死亡診断書」条項を無視し、不認定通知書には記載されていない環境省基準により、「不認定」にしたということが判明しました。

 鉄道・運輸機構が厚労省認定基準を正しく理解し、運用してれば、亡父は最初の申請時点で、「認定」されるべきものであったと確信しました。

【異議申立書の提出】

 令和5(2023)年8月28日付けで「第三者の放射線専門医による画像診断書」や再審を求める根拠を列記して、「異議申立書」を提出することができました。

 この「異議申立」を行う際に、特に強調したのは、同じ「死亡診断書(アスベスト疾患)にある病名」、同種の「職場」で働いていた職員が、同じ「厚労省の認定基準」の基で、「JR職員」であれば労働基準監督署から「認定」され、「旧国鉄職員」であれば鉄道・運輸機構から「不認定」となる摩訶不思議な差別が生じていることに気づき、(鉄道・運輸機構が)これからの認定作業を是正する必要があることを認識させることでした。

【毎日新聞の令和5(2023)年12月5日付記事に掲載】

 斎藤事務局長のお知り合いで毎日新聞・専門編集委員の大島秀利記者が(スクープとして)社会面トップ記事で、「旧国鉄 中皮腫死補償せず」「石綿作業の職員 診断書記載でも」との見出しで亡父のことを取り上げてくださいました。

 この記事では、NPO職業性疾患・疫学リサーチセンター副理事長の藤井正實(まさみ)医師の話として「CT画像を見たところ、中皮腫である可能性が高い。正確な診断には採取した組織を観察する病理診断が必要だが,患者死亡では、病理標本の入手は難しい。死後5年を超えたケースでは、厚労省の認定基準に沿って死亡診断書の記載を尊重すべきで、不認定の結論は理解に苦しむ。」との見解がありました。

死亡診断書に「中皮腫」、石綿作業35年 旧国鉄職員遺族に補償なし | 毎日新聞

【支援団体からの強力なバックアップ】

 加えて再審査に際しては、「アスベスト患者と家族の会 連絡会」として、「鉄道・運輸機構 理事長」宛に「石綿被害の業務災害に関する要望書」を提出(2024年9月13日付)してくださるなど、強力なご支援をいただきました。このように「連絡会」として、意見を表明することが大きな力になったと考えています。

国鉄「時効」遺族(中皮腫)不認定を、認定基準に沿って取り消してください。 – アスベスト患者と家族の会 連絡会

【不認定の取り消しから認定へ】

 業務災害の申請からほぼ2年を経た、令和6(2023)年11月28日付で鉄道・運輸機構から「認定」通知書が届きました。正直言って、あの頑なな鉄道・運輸機構が「不認定」を取り消し「認定」してくださったことに驚きを禁じ得ません。

 鉄道・運輸機構に対する業務災害(時効により業務災害補償の請求権が消滅した遺族様の救済措置)で、異議申立の受理と再審査の結果、「認定」に至った初めての事例となりました。

 今回の再審査では、これまでひとりの専門医で判定していたのですが、「ふたりの専門医の合議」で判定したというのは評価に値します。

 ただし、亡父の死亡原因が死亡診断書にある「右胸膜中皮腫」ではなく「肺がん」とされたことに怒りを感じています。鉄道・運輸機構は「悪性腫瘍の存在」と「ばく露歴」から業務災害として認定したと言いますが、認定後の問い合わせでは、「死亡診断書」にある病名をなぜ「中皮腫」から「肺がん」に変更したのか理由を明らかにしていません。

【今後の問題点】

 鉄道・運輸機構は、厚労省の認定基準を運用していると言いながら、実際は「死亡診断書」条項を無視しています。このために、現状ではJR職員と旧国鉄職員の救済に「差別」が生じています

 亡父と同じ条件下で、これまで「不認定」とされた旧国鉄職員の遺族が多くいることは明らかです。

 この問題は、今後に引き継がれますが、近い将来、「連絡会等」の活動により、必ず正され、多くの患者や遺族が救済されることを祈っております。

令和7年2月9日記

 福島みずほ参院議員が、JR遺族同様、国鉄遺族を救済するよう質問主意書

 上記日和田さんの訴えを受け、福島議員が質問主意書で政府を追及。内閣答弁書は鉄道・運輸機構の誤りを正さないので、再質問主意書も出してくださいました。

石綿健康被害救済法による特別遺族給付金の認定に係る旧国鉄元職員の遺族及びJR元職員の遺族間の権衡に関する質問主意書:参議院

石綿健康被害救済法による特別遺族給付金の認定に係る旧国鉄元職員の遺族及びJR元職員の遺族間の権衡に関する再質問主意書:参議院

 機構は石綿救済法(特別遺族給付金)にも石綿労災認定基準にも従わないと豪語していますが、当事者が共にたたかえば認定させられます。機構の対応は、無法だからです。

 国鉄元労働者遺族で、死亡診断書に中皮腫などと記載されているにもかかわらず、不当に切り捨てられているかた、どうぞご連絡ください。

 なお上記再質問主意書に対する内閣答弁書に、日和田さんの事案について、次のように記載されます。

『なお、御指摘の「不認定と判定された」事案については、申請者からの異議の申立てを受けて、機構において再審査を行った結果、令和六年十一月に認定されたものと承知している。』