石綿救済法の救済給付でも通院費を支給させよう
連絡会では中央環境審議会石綿健康被害救済小委員会に、救済給付で通院費を支給して下さい、と要望しました(2022年8月)。「労災の療養補償で通院費が支給され、療養補償に相当するのが救済給付の医療費」だからです。救済法における救済給付の「医療費」に労災と同じく通院費が含まれると解釈すれば、法改正しなくとも救済給付でも通院費を支給できます。
救済法の法制定時の趣旨は、「すきまない救済」です。労災に近づける努力をすべきで、わざわざ「労災とは違う」とするべきではないでしょう。
それでは、労災の通院費はどうなっているでしょうか。
- 労災 中皮腫以外の通院費
原則傷病労働者の住居地又は勤務地から片道2km以上の通院で、住居地又は勤務地と同一の市区町村内に存在する労災指定医療機関への通院について、通院費が支給されます(2008年改正)。
通院費は公共交通機関のほか、傷病の状態からタクシーの利用に合理的な理由がある場合にも支給されます。自家用車による移送費は、走行1kmにつき37円です。
療養補償の請求書は7-1号用紙で、公共交通機関の通院費は「通院費請求内訳書」を添付します。
2. 労災 中皮腫の通院費
(1)歴史
クボタ・ショックが起きたあと、尾辻厚生労働大臣が2005年10月の記者会見で「労災の一般的な交通費の出し方というのは、『最寄りの病院に行ってくださいね』ということになっております。ただ、一般の疾病でしたら『最寄りの病院に行ってくださいね』でいいんですが、こと中皮腫になりますと『最寄りの病院に行ってください』というわけにはいきません。そのことを患者さん方は言っておられており、常識的な範囲で患者さん方の納得なさる病院に行っていただくというのが一番良いと思っておりますから、最寄りの病院という解釈を中皮腫に限ってはそのようにしたいと思っております」(距離を限定せずに、支給する)と述べました。
2009年1月 労災通院費に関する改正の際、中皮腫の特例通知が廃止されたことに伴い、この特例を継続する旨の事務連絡を発出。(阿部知子衆院事務所が対応) 2017年2月 衆院総務委員会の近藤昭一議員の質問に対し、公務災害でも中皮腫の特殊性を踏まえ通院費を支給すると答弁。 同年6月 衆院厚生労働委員会の堀内照文議員の質問に対し、中皮腫について距離によらず支給することを確認する答弁。 |
(2) All JapanでOK
上記の経緯を踏まえ、2017年10月31日に「中皮腫の診療のための通院費の支給に当たって留意すべき事項の徹底について」という事務連絡が出ました。
全国的に住居地等の近くに中皮腫の専門的な診療に当たることのできる医療機関の設置数が確保できていない実状から、「当該通院が当該傷病労働者を診察した医師の紹介等に基づく通院であることが確認できたとき」はall Japanで通院費が支給されます。
なお上記事務連絡では、労働基準監督署がすべての事案について決定前に厚生労働省本省に連絡を行うとされていましたが、2020年7月31日の通知で「不支給決定を行う予定の事案についてのみ決定前に本省への連絡を行う」と改められました。
(3) 最近の問題
ベルランド総合病院の岡部和倫医師が2023年2月の石綿問題総合対策研究会で、中皮腫の通院費の労災請求に関し「通院費、転医、付添人の必要性について判断するための詳細な多岐にわたる意見書」を、監督署が主治医に求めてくる問題を告発しました。
岡部医師は「日本の病院において、全身麻酔時には家族の付き添いが一般的である。なぜ、妻の立会いの必要性を質問するのか」と批判し、意見依頼が届いた5日後が意見提出期限になっていることも指摘しました。なお、傷病労働者の配偶者が本人の移送に従事している場合には、当該親族にかかわる費用も支給されます。
中皮腫を専門的に診てくれる主治医への、監督署による意見依頼の負担問題について、2022年6月に小池晃参院事務所を通じ、厚生労働省補償課に善処を要求しました。