石綿関連肺がんの大阪高裁逆転勝訴(2016年)
造船労働者の遺族丸本津枝美さんは、「石綿作業10年以上かつ胸膜肥厚斑(プラーク)」という労災裁判で画期的な判決を勝ち取りました(2016年1月28日)。別件同様の旭硝子肺がん労災裁判では認められませんでしたが、丸本さんの裁判では胸膜肥厚斑(はん)の有無をめぐってこの壁を突破しました。
石綿救済法厚生労働省関係の労災時効救済=特別遺族給付金では、医学資料がなくても同僚の労災認定などを参考に支給することがあります。肺がんは「たばこのせい」とされ埋もれがちですが、救済を推進すべきです。
大阪高裁の重要な判示は、下記のとおりです。
「佐開[丸本さんの夫]は、平成18[2006]年認定基準において業務起因性認定の要件の一つとされている石綿ばく露作業従事期間(10年)を2倍以上上回る24年以上の長期間にわたって、本件会社[川崎重工株式会社、現川崎造船]神戸工場での作業に従事していたものであり、この間、日常的に間接的な石綿のばく露を受け続けていたことに加え、石綿が含有されたタルクを原料とする石筆[せきひつ]や墨粉の使用、防火のための石綿布の使用等、直接に石綿を取り扱う作業にも従事していたものであること、佐開に比べると、石綿を取り扱っていた可能性のある施設等からより離れた位置にある診療所で勤務していた看護師のほか、佐開と同一の職種又は類似する職種に属し、あるいは同種の作業に従事していたとされる者や、佐開と同じ部署に在籍していた者、さらに、直接石綿を取り扱っていたわけではない周辺業務のみに従事していたとされる者を含めて、同工場の敷地内で就労していた多くの従業員らが石綿に起因する疾患を発症し、労災認定を受けるなどしていること、・・・佐開には、原発性肺がんの極めて有力な発症原因とされている喫煙歴は全くなく、がんについての遺伝的素因があったともいえないことが認められるのであり、これらの事情に照らせば、本件会社神戸工場で就労していたことにより佐開が受けた石綿ばく露は、佐開の肺内に胸膜プラークを形成するに十分な程度に至っていたものと認めるのが相当である。このことに加えて、既に認定・説示したとおり、佐開の肺内に胸膜プラークの存在が認められるとの意見を述べる医師が複数おり、これらの医師の指摘する複数の部位に胸膜プラークが存在する相当程度の可能性があることを否定できないことをも併せ考慮すると、佐開については、平成18年認定基準を満たす場合に準ずる評価をすることができるものというべきである」。
裁判所が丸本さんについて労災と認め、監督署の不支給決定を取り消したのです。
2014年5月15日に衆議院総務委員会で近藤昭一衆院議員が「2007年に、厚生労働省は、石綿作業十年以上でも石綿小体が五千本に満たないなら認めないという趣旨の基準を示して、今まで認めてきたような事案を切り捨ててしまった。そのため、石綿関連肺がんの労災裁判が次々に起こされた。/裁判所は、このような07年基準は認められない、裁判所は認められないということで、次々に国の主張を退け、原告の主張を認めた。2013年2月12日、大阪高裁、港湾労働者の肺がん、2013年6月27日、東京高裁、製鉄労働者の肺がん、2014年1月22日、東京地裁、航空労働者の肺がん。上記の三事案は、いずれも原告の勝訴が確定しているわけであります。」と質問しました。
製鉄労働者の石綿関連肺がん事件をはじめとして、一連の労災裁判で被災者側が連勝し、丸本さんが有終の美を飾りました。
環境省の石綿関連肺がんに関する救済給付も、厚生労働省の労災認定基準にそろえるべきです。肺がんのほりおこし、被災者の救済にとって丸本さんの逆転勝訴判決は、歴史的な意義があります。