労災日額是正について、労働政策審議会労災保険部会に要望
連絡会は11月3日、稲田朋美衆院議員を通じ、労政審労災保険部会に要望しました。
要望は、下記のとおりです。
アスベストなどの労災給付基礎日額について、原則発症時賃金、ばく露時賃金のほうが高い場合は高いほう、という改正の方向に賛同します。
「労災保険法は、労働者の稼得能力の喪失等損害を填補するとともに[①]、実質的に労働基準法の災害補償責任を担保する役割があることを踏まえる[②]」と、厚生労働省がまとめています。原則発症時賃金は①の生活保障であり、ばく露時賃金は②の災害補償責任であって、①②を整合させる方向と考えられます。
連絡会は2月10日、労災保険制度の在り方に関する研究会にも要望を出しました。その1に、上記ふたつの原則(①②)を強調しました。
厚生労働省に「労災保険制度の在り方に関する研究会」にかかわる要望(労災給付基礎日額) – アスベスト患者と家族の会 連絡会
上記方向の具体化について、二つ要望します。
発症時に自営の場合
徳島の遺族小川さんのばく露時賃金は、20代なので低額です。
発症時は自営であって、別の会社(非災害発生事業場)に勤務していたわけではないので、統計に基づく算定により、発症時の年齢階層にスライドさせてください。
小川さんの日額は現行では20代の賃金の6801円ですが、発症時50代にスライドさせると11080円になります。
研究会の中間報告書36頁に「年齢別の賃金水準を意識したスライドを、個別の賃金の額に関わらずかけていく」という意見が記載されます(第6回における地神委員の発言)。
「労災保険制度の在り方に関する研究会」の中間報告書を公表します|厚生労働省
また、貴部会9/18で冨髙会員が「ばく露時賃金と発症時の推認賃金で、高いほうをとるといった方法も考え得るのではないか」と発言されています。
第120回労働政策審議会労働条件分科会労災保険部会(議事録)|厚生労働省
上記各意見からも、小川さんのように発症時自営の場合には、賃金構造調査の日額を発症時の年齢階層にスライドさせてください。
遡及適用と「石綿健康被害の特殊性」
このたびの遅発性疾病に関する給付基礎日額の見直しは、大きな方向転換と思います。しかし、来年の改正より前に、すでに20代のばく露時賃金になっている当事者はどうなるでしょうか。
実は、休業補償を受けている患者については、給付基礎日額に関する従前の基準が変更された場合、新たな基準で是正すると、労働保険審査会が裁決しています。
患者の場合、遺族の場合、さらに患者が逝去して遺族が請求人になった場合を、実例に即して整理すると下表のようになります。
労災給付基礎日額の是正に関する、患者・遺族・「患者→遺族」の場合の比較
| 低日額の種類 | 再雇用低額 | 20代賃金 | |
| 請求の立場 | 患者A | 遺族B | 患者C→遺族C夫人 |
| 従前の解釈 | 1970年基準 | 1976年基準 | |
| 日額の決定 | 2015年 | 2015年 | 2010年休業補償 |
| 新解釈 | 2023年基準 | 2026年の予定 | |
| 新たな請求に対する原処分 | 2023年 | 2024年 | 未支給の休業補償および遺族補償請求 |
| 不服審査の基準 | 2023年基準(労働保険審査会2025.4.18裁決) | ? | 休業補償は、2026年予定の基準か。遺族補償は、? |
上記患者Aは、東京労災審査官決定書の審査請求人、裁決書の再審査請求人のKNさんです。請求は認容されませんでしたが、東京労災審査官・労働保険審査会とも、後続の休業補償の給付基礎日額について、当初日額決定された2015年よりあとに発出された、2023年基準を判断基準とすることが認められています。
上記患者Cは、渡邉さんです。残念ながら今年8月、石綿肺のため逝去しました。
このように労働保険審査会の裁決に沿うと、「給付基礎日額の遡及適用」は患者(A)についてはOKです。また、未支給の休業補償を受け取ったC夫人(渡邉さん)もOKということになります。そうして休業補償の日額と・遺族補償の日額が異なる、ということはあり得ませんから、遺族はOKにしなければなりません。
それに対し、すでに遺族補償年金を受けている遺族(Bなど)のみ遡及適用されないのは、いかにも不合理です。
クボタ・ショックから20年以上経過して、遅発性疾病の給付基礎日額が見直された。
小川さん(上記の遺族と同じ)、福井の片山さんはいずれも若年時に離職し、現在は20代の賃金で給付基礎日額が算定されています。
クボタ・ショックが起きた2005年から片山さんは、発症時賃金より低額のばく露時賃金とされたことを問題にして訴えています。
国会の会議録の通り、1970年4月28日労働省の和田労働基準局長は、潜伏期間を経て発症する職業がんの給付基礎日額について、発症時賃金をもとに算定すると答弁しています。片山さんは、20代の賃金にされたのは、国会答弁に反すると批判しています。
2005年以来、アスベスト労災の日額について見直しがされてきました。これらは特別加入や再雇用などのため低額になる問題に対応し、災害補償責任を明確にするものでした。
しかし、アスベストなどの給付基礎日額について「整合性のある算定の仕方を検討及び整理するよう」私たちが求めても、今までの20年間では具体的に検討されてこなかったと考えます。
不合理・偶然の低日額を払拭するには「石綿初回暴露から発症までの全期間」を視野に入れる必要があります。今回の見直しは、原則発症時賃金、ばく露時賃金のほうが高ければ高いほうということで、生活保障(稼得能力損失填補[てんぽ])と・災害補償責任を整合させたものと考えられます。
上記20年間の経過を考えると、片山さんや小川さんのような遺族についても、遡及適用すべきではないでしょうか。
アスベスト特有の希少がんである中皮腫は、短期間で逝去する患者が多く、遺族への衝撃も強いものです。長い潜伏期間を経て発症するので、アスベストばく露を立証して労災認定にこぎつけることもままなりません。
そういう中で給付基礎日額が低額にされても、労災認定までがやっとで、とても不服審査には及びません。
「石綿健康被害の特殊性」への手当は、石綿救済法
上記実例の表に照らし、Bさん・片山さん・小川さんのような遺族を、このたびの制度見直しで救済すべきです。
それがむつかしければ、石綿健康被害救済法があります。救済法は環境省関係だけではなく、厚生労働省関係もあり、特別遺族給付金は被災労働者がアスベスト疾患のために亡くなり、労災遺族補償の時効5年を経過した場合に支給するものです。
つまり、労災法では時効のため救済されない遺族を、石綿救済法で救済するのです。アスベスト被害の特殊性があるからです。
アスベスト労災の日額も、まさに石綿被害の特殊性があります。
アスベスト労災認定にこぎつけるまでで精いっぱいなのに、認定とともに給付基礎日額が決定された時「不服審査しなかったのがいけない・しかたがない」というのでは、あまりに酷じゃありませんか。
労災法か・石綿救済法かいずれによるにせよ、片山さんや小川さんのような遺族についても、発症時賃金ないし年齢階層のスライドによって救済して下さい。
